開発の部屋–私達のものづくりスピリット物語

01 立体駐車場

1992年、TSSは立体駐車場RX-7型ミニパークを発売した。4.5mの間口で車7台を駐車できるメリーゴーランドタイプのこの製品は、東京都発明展で奨励賞を受賞したこともある、知る人ぞ知る一品だ。技術者達の意気地の結晶であるこの製品誕生のきっかけは、こんなことからだった。

時をさかのぼること20年ほど前。社長の田中は、異業種交流会の会合に参加していた時、関係者から立体駐車場の共同開発先を探している企業があると聞いた。当時の日本は、バブル絶頂期。国中が経済の発展に酔いしれると共に、地価は上昇の一途をたどった。利益性の高い商業ビルやマンションが急増する一方、儲けの少ない駐車場は減少し、違法駐車が社会問題になっていた時だった。

「立体駐車場かぁ…」

今の立体駐車場というのは、大きな建物の中に車が入り、ぐるぐる回って各階の駐車スペースに停めるというのが、一般的なイメージ。しかし、当時求められていた駐車場は、小さな土地で多数の車を収納できるものだった。小さな敷地の中で、車を載せる台がくるくる周る、機械仕掛けの装置。分野こそ違えど、TSSの技術を応用できる可能性が十分にあり、しかも、今後の需要が大いに見込まれる設備であった。
何かを作り上げる、その過程の高揚感こそが、技術者の醍醐味だと常日頃から思っていた田中。彼のモノ作りへのこだわりと言うアンテナが反応していた。

「これは…やってみよう!」
こうして共同開発に名乗りを上げ、立体駐車場プロジェクトがスタートしたのだった。

TSSが目指すものは、コンパクトかつ多収納、さらに音が静かな立体駐車場。将来を見込める重要な事業故に、大きなプロジェクトチームを作りたい気持ちではあったが、なにせTSSは中小企業。いかんせん、たくさんの人員を新事業に投入することはできない。そこで、向島と室井、武井らの5名をメンバーとして選出し、小さなチームから始めることにした。

最初は、10分の1の模型からスタート。しかし、模型段階でも様々な課題があり、それを一つずつ検証、クリアーしていかなければならない。部品の角度を少しだけ変えて、強度を強くしよう。バランスが崩れて車体を支えられなくなるから、ここの配置は変更しない。その代わり、そこの配置を変えてもっと全体的に小さくしよう…。部品の素材・形状にこだわり、大学の専門家にも話を伺い、毎日実験を繰り返した。車は、人の命を載せるもの。それを載せる駐車場は、車本体ではなくとも、安全性の保証は最重要項目と言える。その要となる強度を強くしようとすれば、どうしても部品が大きくなる。しかし、部品が大きくなると、製品自体も大きくなってしまう。強度と最小化という、矛盾するニ点のバランスを釣り合わせる最高の作用点は、一体どこにあるのか…。

「これを、この横の方に置くのはどうですかね?」
「うーん、それだとここが干渉して上手く行かなくなる。ここは小さくしてみたらどうだ?」
「それだと、強度面が…。なかなか上手く行かないですね…。」

地道な作業が何日も続く中、答えが見つからず、行き詰ることもしばしば。そんな中で、先行きを考えて不安に思う日がなかったとは言えない。周りに気付かれない様に振舞ってはいても、自分だけが知っている、心の中にポコッと開いた小さい穴…『本当に利益はでるのだろうか。自分達の仕事は、必要とされているのだろうか』。でも、誰も口には出さなかった。その代わりに、その思いを仕事にぶつけた。

模型での検証が終了し、いざ組立本番。富山県朝日町にある第一工場横のテニスコート(現在は、その後増築した新しい棟が建っている)で、ヘルメットに作業靴と、建築現場さながらのいでたちの3人は、さっそうと現場に向かった。
夏の日差しが容赦なく襲う中、8メートル近い高所で行う作業。また、使う部品も今までのものとは全く異なるビッグサイズ。通常、TSSの機械製造で使う部品は、大体が片手でつかめる程度の大きさだが、この事業では、ネジ1本でさえも手のひらサイズで、板金(金属製の板のこと)に至っては、5m近くにもなる。灼熱地獄と高さの恐怖、慣れない部品と作業への戸惑いが彼らを襲う!

「あぁ…暑い、暑い、暑いぃ…」
「俺は高いところなんて怖くない…怖くないぞ!(自分自身に言い聞かせている)」
「なんか俺、入社したばっかだけど、イメージと全然違う仕事してる…」

皆が分からないことだらけだったが、そんなことに構ってはいられなかった。早く既存メーカーに、追いつけ追い越せ。その一心で作業していた。やがて、最初はばらばらだった3人が、いつの間にか一つのチームとなって進んでいた。これを絆というのかはわからなかったけど、確実に繋がりが生まれていた。

1992年、ようやく彼らの目指すものが完成した。1.6台分のスペースに7台を収納できるスマートなフォルム。振動がなく、静かな移動音。やっとの思いで出来あがった作品が車を載せて動いている時の姿は、彼らの胸を打つのに十分だった。何もなかった所から、これだけのものを作り上げた…そんな達成感でいっぱいだった。

その後、大手自動車メーカーのお墨付きを頂き、2台を販売。これからが本番だ!と意気込んでいたところに、悲劇が襲った。バブルの崩壊である。
ちょっと前まで土地を買い漁っていたたくさんの人々が、夢の様に消えた。物価も大幅ダウンし、地価が一気に下落したことで、都内に空き地が増えていった。TSSの立体駐車場は、性能面では他社にひけをとらない出来だったが、需要が大幅に減り、コスト面でも採算が合わなくなり、もはや事業の存続から考えなくてはならない状況になっていた。

「…ストップ、するしかないな」
「そんな…」
田中の経営者としての決断が下され、メンバーはこれに従うしかなかった。

こうして事業は終わりを迎え、チームも解散することになった。彼らの心の穴が今どうなっているかは、本人達にしか分かり得ない。しかし、この経験から得た繋がりを糧に、彼らはそれぞれの道を歩んでいる。

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